Chansons de geste ~La Canzone di Guglielmo~

そは――騎士達の物語。そして――史詩。



ギョームの歌


31


 道すがらジラールは武具を身に着けた。
 駄馬を捨て、良い馬にまたがった。
 テバルドは驚いた者のように立ちあがり、
 自分の前方を見まわし、駄馬を見つけた。
 あぶみに飛びつき、鞍の上に座った。
 (馬に)乗ったとき、彼は逃げることを考えた。
 自分の前方を見まわし、大きなとがり杭の柵を見つけた。
 その柵は棒で補強されていて、一本も引き抜けないようになっていた。
 柵は非常に高く、それを飛び越えて行くことはできなかった。
 サラセン軍の叫び声が聞こえ、
 その恐れのために谷へ下りていく気にはなれなかった。
 彼は丘に上がり、羊の群れを見た。
 その群れを抜けて逃げようと試みた。
 彼のあぶみに一匹の羊がぶつかった。
 
 

32


 一匹の灰毛の羊が彼のあぶみにぶつかり、
 その勢いでテバルドは谷やら山やらを走りまわらされた。
 彼がブルジュ市門の橋のところに着いたとき、
 あぶみには羊の頭だけがあった。
 こんな戦利品をもち帰った勇者は今まで誰もない。

Lunesdi al vespre(月曜の晩祷に)

 貧乏人ならそれほど失うものなどもっていなかっただろう。
 
 

33


 さて、みなさんに若武者ジラールのことをお話ししましょう。
 彼がまっすぐに自分の道をもどってみると、
 前方にエストゥルミの姿が見えた。
 彼は自分の良い馬をすっかりだめにしてしまっていた。
 そして誰も彼に追いつかないようにと望んでいた。
 エストゥルミは速く駆けようと思っていた。
 ジラールはそれを見て、彼に言葉をかけた。
 「どうしたのか?騎士エストゥルミよ」。
 エストゥルミの答えて言うに、「逃げることを考えろ」。
 「後へ引き返せ。戦いにもどれ。
 今戻らなければ、あなたはすぐ死ぬことになるだろう」。(俺がこの手で殺してやろう)
 「もどるものか」。エストゥルミは彼に言った。
 ジラールは言った。「行かせるものか」。
 彼は馬に拍車を当て、勇者らしくエストゥルミに戦いをいどんだ。
 彼の盾を砕き、鎖かたびらを壊した。
 そして肋骨3本をたたき折った。
 馬上から槍の届く限り彼を打った。
 エストゥルミが落馬したとき、ひと言慇懃(いんぎん)な言葉をかけた。
 「失せろ、やくざ者め。お前は最悪の恥をかいたのだ。
 お前の叔父のテバルドといっしょに自慢もできまい。
 お前が逃げたら勇者は誰もいなくなるなんて自慢はな。
 お前はもう伯ギョームを見ることはあるまい。
 その甥ヴィヴィアンも、他の勇者たちも。

Lunesdi al vespre(月曜の晩祷に)

 お前はもうヴィヴィアンもギョームも見ることはあるまい。
 
 

34


 ジラールは可能な限りの速さで走り去った。
 その盾は内外共に良く、
 革ひもにも取っ手にも、またその外側全面に、金の縁がつけられていた。
 イエスの(天の)軍にも
 テバルドを見切ったときのジラールほどに高貴な者はいないだろう。
 彼はあらん限りの速さで戦場に戻り、
 ひとりの異教徒の胴鎧を打つと、
 その剣は背中を貫いた。
 剣をさらに(直訳:良く)押し込むと、異教徒は倒れ息たえた。
 彼は「モンジョワ!」と叫んだ。我らが軍の叫びである。
 そしてまだ別の異教徒の二重盾を打った。
 盾は端から端まで粉々に割れた。
 取っ手をつかんでいた腕を切り落とし、
 胸を裂き、内臓をえぐった。
 長い投げ槍は背中を貫き、
 死んで地面に長々と横たわった。
 彼は「モンジョワ!」と叫んだ。鉄腕ギョームの叫びである。

Lunesdi al vespre(月曜の晩祷に)

 これら異教徒らは彼を恐るべき騒乱の中に見たのだった。
 
 

35


 勇者ヴィヴィアンは自分の仲間らを呼んだ。
 「おのおの方、良き剣をもって戦いなされよ。
 戦え、フランクの者ら。この兵群をたたき潰されよ。
 私はルイ王かギョームが来るとの知らせを聞いた。
 もし彼らが来たなら、戦いはすぐに終わるであろう(長くは続かない)。
 フランク軍は良き剣で戦った。
 彼らは恐るべき騒乱をかきわけて進み
 ジラールを認め、必死で彼の名を呼んだ。
 
 
 



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