26 「ヴィヴィアン殿、あなたはかくなる(高い)血統の方です。 会戦においてはあなたが私たちを指揮しなければなりません。 あなたはブーヴ・コルネビュ候の子として、また良きエメリ伯の娘御の子として生まれました。 鉤鼻のギョーム候の甥でもあります。 会戦においてはあなたが私たちを指揮しなければなりません。 「その通りだ、殿方よ。主の御名において感謝する。 しかしある一事が私にそうすることを許さないのだ。 あなた方は私の部下でなく、私があなた方の主君であったこともない。 私を見捨てても誓いを破ったことにならない(直訳:誓いにそむくことなくあなた方は私を見捨てることができる)。 彼らは声をそろえて答えた。「殿、そんなことを言うべきではありません。 神がその使徒らの間におられた(直訳:座っていた)ときこの地上において彼らに与えられた法にかけて、誓ってあなたに申しますが、 あなたが生きておられる限りあなたを裏切るようなことはいたしません」。 27 では私は強き王なる神と、(キリストが)死を耐えしのばれたとき罪人らのためにその身体の中に持っておられた魂にかけて、 私の身体の耐えられる限りあなた方を見捨てるようなことはしないと言っておこう」。 そう言って彼は自分の旗印を高く上げた。 そして手を朱のストッキングの中に入れ、そこから絹の旗印を取り出した。 3本の金のくぎでそれを槍に留め、右手でその棒の部分を振り回した。 先端まで軍旗は波打ちはためいた。 彼は、馬に拍車をかけると、すぐさま前へ向かって跳ね出した。 ある異教徒の二重盾を打つと、その盾は全て木っ端微塵となり、 その取っ手とにぎっていた腕とを切り落とした。 胸を切り裂き、内臓を断ち切り、 その槍は彼の背中まで突き抜けた。 28 金が銀から分かれ純化するように、そのように良き者らは選び出された。 臆病者らはテバルドと一緒に逃げ去った。 ヴィヴィアンと共に残った者は勇敢な騎士たちだった。 皆が第一戦で共に戦った。 金が銀から分かれるように、そのように高貴な者らは選び出された。 まず彼ら、勇敢なる者らは第一戦で共に戦った。 誰が最も勇猛か言えないほどだった。 最初の攻撃でテバルドは後ろを向き、ブルジュへ向かう道を逃げ出した。 4つの道が交差している十字路のところで4人の盗賊どもが並んで縛り首になっていた。 絞首台が低かったので、彼ら低く吊るされていた(直訳:最高点は低かった)。 馬は道を歩きつづけ、その下をテバルドを運びながら通り過ぎた。 縛り首のうちのひとり(の口)にテバルドがぶつかった。 テバルドはそのことを見て、悲しみ、また恥を感じた。 彼は恐怖のために、自分の鞍覆いを汚してしまった。 そしてそれがまるきり糞まみれになったと感じたとき、ももを上げ、鞍覆いをわきへ押しやった。 彼は彼を追ってついてきていたジラールを呼んだ。 「友、ジラールよ。この鞍覆いをとれ。 これには金や宝石類が使われている。 ブルジュでそのうちの5百リブラを抜き取るようにしなさい」。 するとジラールは彼に言い返した。 「するとその糞まみれになった鞍覆いを私が処分するということですか」。 29 勇敢なる若者ジラールは言った。 「テバルド様、私の言うことを少しお聞きになってください。 あなたはベリーの国で言うことになるでしょう。 私は残ってあなたは逃げたと。 あなたが私を生きて再び見ることはないでしょう。 私は勇者ヴィヴィアンを助けに行きたいと思います。 彼は私の身内です。私にとって(自分が)生きるか死ぬかということは問題ではないのです。 私は地下に財宝をうまい具合にかくしもっています。 どこにそれがあるか(あなたがそれをどこでとるか)あなたに教えましょう。 そうすれば、私が死んだ後、言い争いも起りますまい。 30 テバルドは大きな愚行をおかした。 ジラールの方へ向くのに両方の手綱をとったときに。 ジラールはテバルドに追いつき、その首をひっつかんだ。 また鞍の向こう側から彼を押し、 その兜を細紐にいたるまで地面にたたき落とした。 ジラールはテバルドの首に手を伸ばし、 彼の大きな2重盾を取り去った。 その盾は周囲を金をふんだんに使って飾り立てられていた。 輪の中心にはアラビア産の金が使われていた。 (その盾は)ヴィヴィアン自身があるハンガリー人から ジェローナの野での戦いで奪ったものだった。 彼はそこで異教徒アルデルフェを殺し、 ボレルの12人の息子の首をとった。 そして王からかの2重盾を取り上げ、 伯父であるギョームに献上したのだった。 後にギョームはその盾を臆病者テバルドに与えた。 しかし今日この勇者がこの盾を首にかけることになったのだ。 ヴィヴィアンはテバルドから強力な2重盾と 先までよく切れる良き剣をも取り上げた。 (この詩節の前半5行、行為の意味が不明確。ヴィヴィアンとテバルドとの関係が逆になっている可能性なきにしもあらず) |