Chansons de geste ~La Canzone di Guglielmo~

そは――騎士達の物語。そして――史詩。



ギョームの歌


21


「兄弟エストゥルミよ、異教徒らの迫ってくるのが見える。
 彼らの馬はとても速く、たとえ15リーグ、あるいはもっと走らせても、まるで平気なのだ(直訳:わき腹は脈打たないのだ)
 今日、アルシャンの野で、臆病者たちが死ぬことになるだろう。
 もう敵の侵入兵は第一線へと近づきつつある。
 大なる者は小なる者を救えず(直訳:大なる者のおかげで救われず)
 父が子を助けることもできない。
 全能なる神を信じようではないか。
 彼こそすべての邪教徒よりも優れた者だ。
 戦おう。そして勝利をつかもう(直訳:そうすれば戦場は我々のものだ)

 

22


 テバルドは言った。「ヴィヴィアン殿、何を提案されるか?」。
「戦うことです。すでにその時は来ています」。
 そしてまた訊いた。「エストゥルミよ、お前はどう思うか?」。
「皆の者が自分の命を救うよう考えることを望みます。
 今逃げない者はすぐに死んで地面に横たわることになるでしょう。
 我々の命を救うのです。逃げましょう」。
 ヴィヴィアンは言った。「まるで犬のせりふを聞いているようだ」。
 テバルドは答えた。「いや、彼は私の近親だ。
 だから、欺瞞にせよ虐待にせよ、私に不名誉をもたらすような何事も望まないのだ」
 

23


「甥エストゥルミよ、軍旗を破れ。我々が逃げるのに誰も気づかないように。
 というのも卑しい異教徒どもは旗に向かってやって来るものだからな」。
 エストゥルミは言った。「主が我々を祝福してくださるよう」。
 その臆病者は、天に向かって、自分の(槍の)棒を向けた。
 彼の鞍の上に槍を前に向けて置き、両手で白い旗を破ったのだった。
 そして両足でそれを泥の中に踏みにじった。
 

24


 公テバルドは、長い投げ槍をもっていた。
 彼はその取っ手を天へ向け、その刃(鉄)を鞍の後方へ向けて置き、
 旗をりんごの木で作られた棒でもって破り捨てた。
 そして両足でそれを泥の中に踏みにじった。
「旗よ、わしは戦場で異教徒共がわしを見つけ出すよりも、
 天からの火がお前を焼いてくれることの方を好むよ」。
「悪い知らせだ」。伯ヴィヴィアンは言った。
「旗持ちらが我々を戦場に置き去りにしてしまうとは」。
 

25


「高貴なる一族よ、我々はどうなることであろうか?
 我々の旗持ちらは戦場にいない。
 テバルドとエストゥルミは我々を置いて行ってしまった。
 異教徒たちはすぐ近くまで来ている。
 我々の兵5人、10人に対し、異教徒の兵は百、千だ。
 我々を指揮できるような人物もいない。
 そこに呼び集まるための旗もない。
 導き手(主)なき民は不幸なるかな!
 行け。高貴で勇敢なる騎士たちよ。
 私には多くの勇敢な者らが破滅へと送り出されるのを見るのは耐えがたい。
 私も恐るべき危険の中へと赴こう。
 決して後戻りすることはすまい。かつて神に誓ったのだ。
 死の恐怖のために逃げだしたりすることはしないと」。
 フランク軍(の者ら)は答えた。彼らが言った言葉をお聞きあれ。


第22詩編最後のテバルドのせりふの中の動作主体がどうもあいまいです。まあ、一番無理が少なそうなので、一応、「エストゥルミはこういうつもりで言ったのだ」と、テバルドが甥(エス)を弁護している言葉と取っておきましたが・・・「正解か!」と詰め寄られてきたら、「おう」と答えるほどの自信は正直ないですね。
 古フランス語では主語は普通省略です。

 
 
 



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