フランクのシャルル王は七年の年月をかけて、イスパンヤの地をその手中に収めた。 時に聖歴778年のことである。 異教に傾倒し、不遜にも神に背いたイスパンヤの国はシャルル王の軍勢になすすべもなく降り、残るはただ、峻険なる山間に栄えたサラゴッサのみとなった。ここを治めていたのは、異教サラセンの王――マルシル。彼は、異形の神を崇め、その僕となった。 「腕が鳴るな、オリヴィエ」 ローランはサラゴッサの頑強な砦を臨んで、側に立つ青年に言った。 「ここが終われば、オードに会える」 優雅に波打つ白金の髪が風になびいた。オードのことを口にするとき、ローランは優しい顔をする。オリヴィエは肯いた。 「この砦を落とせば、君と妹の結婚式だ」 「楽しみだよ。純白のドレスを着たオードはどんなに綺麗だろう」 主陣営の設置されるコルドルの街からここまでは、馬で約半日かかる。遠乗りという名の偵察に出かけた二人が朝、主陣営を出発し、ここについたのは昼過ぎであった。 「戻ろうか。一応、あの砦が堅固だというのは判ったことだし」 「つまらないな、もう少し近くまで近づいてみたいものなんだが」 「奴らの弓に狙われてハリネズミになりたいのなら、私は止めないが」 そこで一度、オリヴィエはことばを区切った。 「王は嘆かれるだろうね」 「じゃぁ、無謀なことはできないじゃないか」 ローランは、快活に笑った。オリヴィエも、元気な義弟に笑いかける。二人とも手綱を引くと、コルドルの方向に向かって馬を走らせた。 |